すご本

森林と人間―ある都市近郊林の物語 (岩波新書)

森林と人間―ある都市近郊林の物語 (岩波新書)

それほど期待せず読み始めたのだが、めちゃめちゃすご本でした。北大の苫小牧演習(研究)林長だった方で、荒れ果てた演習林を都市近郊林として再生させていくという過程を書いた本。林業が本業ではなく、イワナの研究者だった筆者が、

  • これまでの日本の林業の常識とかけ離れた、新しいビジョン
  • 大学/官庁との折衝
  • 地元とのつながりの確立
  • 徹底した現場主義

で、やりとげてしまうという話。本書では書かれていないが、一介の学者が、上部との折衝及び、地元との強固なつながりを確立するスキルをどう獲得したのかについて知りたかった。高校、大学入学前に社会経験をしたとあるが、そこでの経験なのだろうか? 一度、苫小牧に行って、研究林を訪れたくなった一冊。印象に残ったのは

しかしマニュアルというものは、つくった途端に人間の頭を使わなくさせるものである。「専門家」たちが微に入り細にわたるマニュアルをつくっている森林官庁で、いかに硬直したばかばかしい仕事が行われていることか。」

現場を無視したマニュアルの複雑さは、森林の崩壊―国土をめぐる負の連鎖 (新潮新書)でも述べられている。
また、市民のモラルについても、

つまり、市民自身がここの自然を護るようになってきているのだ。演習林が頼んだことではない。この演習林のものはすべて皆のもの、だから誰も独占したり傷めたりしてはならない、という認識が、この演習林を開放して以来少しずつ育ってきた結果だと思う。みんなのもの、という気持ちがなかったら、どうして護る気になるだろう。(略) 自然を不特定多数の住民に開放するのは大きな勇気が求められる。なかでも必要なのは、自然への愛情とそれに基づくモラルが、自主的に育ってくるのを待ち続ける勇気だと思う。ただし、それは自然に寄せる担当者の熱意と呼びかけがあってのことである。

このように述べている。苫小牧演習林については、初めて知ったが、もっと世の中に知られるべきだと思う。